日常の経理業務でよく出てくる勘定科目のひとつが「福利厚生費」です。
しかし、目的によって「福利厚生費」ではなく「会議費」「消耗品費」「交際費」等の勘定科目になることがあります。
では「福利厚生費」で処理するにはどのような要件が必要なのでしょうか。
本記事で「福利厚生費で計上するための要件」や、勘定科目の中でも悩みがちな「飲食費」についても解説いたします。
福利厚生費とは簡単に言うと給与や賞与のほかに付与される報酬のこと
「福利厚生費」とは、給与や賞与のほかに付与される報酬のことで「すべての従業員に対して平等に付与される」ことが原則です。
「すべての従業員」すなわち、正社員・パート・アルバイト等、雇用契約を結んでいる人が対象となります。
「福利厚生費」は税務では経費として扱われるため、節税にも繋がりますので、会社にとってはメリットとなるでしょう。
また、福利厚生が充実している会社は従業員の満足度も高く、良い人材の確保にも繋がるのです。
混同しやすい福利厚生費と交際費|違いを押さえよう
日常の経理業務で「飲食代」や「祝電」「弔電」等を「福利厚生費」で計上するのが良いのか「交際費」で計上するのが良いのか悩むことがあるのではないでしょうか。
「福利厚生費」と「交際費」は混同しやすいもので、違いは「従業員に対して支出する費用なのか」「従業員以外に対して支出する費用なのか」です。
飲食代でも、従業員に対して支出する費用であれば「福利厚生費」で計上をし、取引先等の人に対して支出する費用は「交際費」で計上をします。
福利厚生費には法定福利費と法定外福利費がある
「福利厚生費」には「法定福利費」と「法定外福利費」にわかれますが、それぞれの費用に該当するものが何かわからない人もいるのではないでしょうか。
法定福利費に該当するもの
「法定福利費」とは、法律で会社が負担することを義務付けられている費用のことです。
具体的には
- 健康保険料(40歳以上になると、介護保険料も含まれる)
- 厚生年金保険料
- 子ども・子育て拠出金
- 雇用保険料
- 労災保険料
が該当します。
法定福利費についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>法定福利費とは? 詳しい内容や計算方法・建設業の見積書について解説
法定外福利費に該当するもの
「法定外福利費」とは「法定福利費」以外の費用で、会社によっては「福利厚生費」で計上されます。
具体的には
- 住宅手当
- 出張手当
- 健康診断
- 予防接種
- 社内の慰安旅行や運動会、忘年会
- 従業員への報奨金
- 従業員への結婚祝いや出産祝い
- 従業員への香典
- 制服や作業着(工場勤務の場合は安全靴)
- 制服等のクリーニング
- 従業員が飲むお茶やコーヒー
- 残業時の食事代
- 従業員が使用するティッシュペーパーやトイレットペーパー、洗剤
等が該当します。
福利厚生費は適切な勘定科目で計上しよう
「福利厚生費」は財務諸表の中の「損益計算書」に記載されています。
損金として扱われるため、利益が減少し、法人税の節税に繋がる費用です。
社外の人や社内でも特定の人だけに支出した飲食代や冠婚葬祭で支出した費用等を「会議費」や「接待交際費」ではなく「福利厚生費」として計上することはできません。
そのため「福利厚生費」は適切な勘定科目で計上することが重要です。
「福利厚生費」として計上するかの判断が難しい場合は、上司や会社で依頼している税理士に相談しましょう。
福利厚生費となる要件
支出した費用が「福利厚生費」となる要件は何でしょうか。
福利厚生費の要件3つをチェック
従業員に対して支出したとしても、すべてが「福利厚生費」として計上できるわけではありません。
税務上「福利厚生費」を計上するためには3つの要件が必要で、すべて満たさなければならないのです。
- 支給は現金ではない
- 支出額が常識の範囲内である
- 全従業員を対象としている
「支出額が常識の範囲内である」については、例えば40人程度の従業員の忘年会に200万円や300万円も支出していれば「福利厚生費」で計上することはできません。
該当しないと給与とみなされ所得税の課税対象になる
では「福利厚生費」に該当しない場合は、税務上どのようになるのでしょうか。
「福利厚生費」として認められないと判断された場合は従業員に対する「給与」とみなされ、所得税の課税対象となります。
給与扱いとなるため、従業員の所得税や社会保険料の負担が増えてしまうのです。
また従業員だけではなく、会社も「源泉所得税の納付漏れ」となり源泉所得税の追徴課税と「不納付加算税」という罰則が課されてしまいます。
「不納付加算税」は納付しなければならない源泉所得税の10%を支払うことになるので、注意しましょう。
具体例で福利厚生費になるポイントをチェック
「福利厚生費」になるポイントを具体例でチェックしましょう。
【住宅手当】従業員以外が居住するのかどうかがポイント
「住宅手当」は、従業員が住んでいる家の家賃や住宅ローンの一部を会社が負担する目的で支給する手当のことを言います。
従業員には一人暮らしの人や家族と同居している人がいるため、会社の「住宅手当」を支給する・支給しないの判断は、「家賃や住宅ローンを従業員本人が支払っているか」です。
また、会社負担額については「従業員以外が居住するのか」がポイントになりますので、居住人数によって金額が変わる場合もあります。
【出張手当】会社の規定内であるかどうかがポイント
「出張手当」は、従業員が出張する際に支給される手当です。
会社には「旅費規程」があり、その中で「出張手当」については
- 国内出張の場合
- 海外出張の場合
- 日帰りの場合
- 日帰り以外の場合
- 役職ごと
の日当や宿泊費、交通費について書かれています。
同じ規模の会社や同じ業種の会社と比較しても高額ではない金額を定めていますので、会社の規定以上の経費が支出されていれば、経費として計上できない場合があります。
そのため「会社の規定内であるか」がポイントです。
【懇親会費用】全員参加が前提で外部の人が含まれないことがポイント
従業員との交流や親睦を深めるために開かれる新年会や忘年会等は「全員参加が前提」で外部の人が含まれないことがポイントとなります。
ですが、新年会や忘年会等のイベントに参加できない人もいるでしょう。
「全員参加が前提」なので欠席者がいれば「福利厚生費」として計上できないのかと言えば、そうではありません。
イベントを従業員全員に通知しているかどうかが重要で、従業員全員に通知していれば「福利厚生費」として計上することができます。
【慶弔見舞金】慶弔規定に基づき全従業員が対象であることがポイント
「慶弔見舞金」は従業員や家族の祝事や不幸事に対して、会社が支給するお金です。
会社には「慶弔見舞金規程」があり、その中で
- 結婚祝い金
- 出産祝い金
- 死亡弔慰金
- 傷病見舞金
- 災害見舞金
等について書かれています。
従業員が対象ですが「死亡弔慰金」は、従業員の家族が亡くなられた時に支給される場合もある「慶弔見舞金」です。
また、会社によっては従業員が成人したときに「成人祝い金」を支給する場合があり、独自で定めている「慶弔見舞金」もあります。
「慶弔見舞金規程」は一般的な相場に基づいて定められていますので、すべての従業員に対し、会社の規定内で支給することがポイントです。
【慰安旅行手当】旅行期間と参加割合がポイント
日頃、業務に励んでいるすべての従業員を労うために行う旅行が「慰安旅行」です。
従業員に思う存分楽しんでもらいたいという思いから、会社が長期間の旅行を計画することがありますが、この場合は「福利厚生費」として計上できません。
慰安旅行を「福利厚生費」として計上するためには
- 旅行期間は4泊5日以内(海外旅行の場合は、外国での滞在期間が4泊5日以内)
- 全従業員の50%以上が参加していること
が要件となります。
また、費用については一人あたり10万円が目安となりますので、それ以上を会社が支出していれば「福利厚生費」として計上できませんので、注意が必要です。
【残業の際の飲食】実費精算であることがポイント
従業員が残業した際に支出した飲食代は「福利厚生費」として計上することができます。
全従業員が対象で、食事代は全額会社が負担することが要件ですので、従業員が飲食代を立て替えた場合は、領収証と引き換えに精算しなければいけません。
なぜなら、残業した際の飲食代は「実費精算」であることがポイントで、例えば800円の飲食代に対し1,000円支給すれば「福利厚生費」として計上することはできないからです。
また、一般常識とかけ離れた飲食代である場合は「残業時間内の飲食」とは考えられないため、精算時は注意しましょう。
会社が福利厚生の充実を図るメリット2つ
会社が福利厚生の充実を図ると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
メリット①優秀な人材確保のためのアピールになる
就職活動をしている人にとって、給与等の待遇だけではなく「福利厚生が充実している」ことも、会社選びのポイントになっています。
福利厚生が充実している会社は「働きやすく、従業員のことを第一に考え、従業員を大切にしている」という印象があり、会社に対して良いイメージを持ちます。
福利厚生の充実を図ることで、会社のアピールポイントとなり、優秀な人材が確保しやすくなるでしょう。
メリット②従業員のモチベーションがアップする
良い人材の確保だけではなく、従業員にとっても「働く環境が整っていて、自分達を大切にしてくれている」と感じ、会社への満足度が高くなります。
その結果、モチベーションがアップし、生産性の向上や離職率の低下そして会社の業績が上がることにも繋がります。
また、健康に関する福利厚生を充実させることで、従業員の健康を守ることにもなりますので、心身ともに常に良い状態で従業員は業務を行うことがでるようになるでしょう。
会社が福利厚生の充実を図るデメリット2つ
では反対に、会社が福利厚生の充実を図ると、どのようなデメリットがあるのでしょうか。
デメリット①コストや手間がかかる
福利厚生の充実を図ることでコストがかかってしまいますので、資金面で余裕がない会社は厳しくなります。
また「福利厚生費」として計上するためには全従業員が対象ですので、周知することや手配業務そして「福利厚生費」で計上するものと計上しないものの確認業務等、様々な手間がかかることにもなります。
一度導入してしまうと止めることができないため、導入前には十分な検討が必要です。
デメリット②従業員によって利用頻度が異なり不満の原因になることも
福利厚生を充実させても「利用する人」「利用しない人」がいます。
そのため、従業員によっては利用頻度が異なることで不公平感を感じ、不満の原因になってしまうことがあります。
全従業員が対象と言っても、すべての要望に応えることはできません。
特定の人だけにメリットが偏らないように注意しなければいけませんので、導入には十分な検討が必要です。
建設業は法定福利費を見積書に明示し請求できる
建設業の場合は「会社によって、社会保険等に未加入のまま仕事を行っている」ことが問題となり、見積書に「法定福利費」の記載が義務付けられることになっています。
現場作業員の「法定福利費」は「労務費」を計算し、労務費の総額に
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
- 子ども・子育て拠出金
それぞれの保険料率をかけた金額を算出します。
見積書には「事業主負担分」として、
- 各保険料(「健康保険料」「厚生年金保険料」等)
- 対象金額(労務費)
- 料率
がわかるように明記が必要です。
建設業における法定福利費の見積書への記載について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>法定福利費とは? 詳しい内容や計算方法・建設業の見積書について解説
人件費に対する福利厚生費の割合の目安は20%ほど
「福利厚生費」は人件費の中でも占める割合が大きいです。
では目安として、人件費に対する「福利厚生費」の割合はどれくらいが適正でしょうか。
従業員1人に対し、1か月当たり現金給与総額の20%ほどが目安となります。
「法定福利費」は法で会社が負担することを義務付けられている費用ですので、削減することはできませんが「福利厚生費」は調整することが可能です。
そのため、目安である人件費の20%を参考に「福利厚生費」の支出を調整するようにしましょう。
まとめ
本記事では「福利厚生費」について詳しく解説いたしました。
福利厚生は会社にとっても従業員にとっても重要です。
「福利厚生費」を計上するための要件を守り、福利厚生をできる範囲で充実させて会社の継続・発展に役立ててください。